「あれ? 佳乃子先輩もいたんですか?」
オフィスでの禁断のセックスのあと、私たちは身を整えると、退社の準備を始めた。するとほどなくして、コンビニの袋を持った舞衣がやってきた。
「舞衣ちゃん⁉ なんでここに?」
あと十数分早かったら、行為を見られていたところだ。さすがに驚きを隠せないでいると、舞衣は不本意な顔をした。
「それは、こっちのセリフですよ。佳乃子先輩、とっくに帰ったかと思ったのに。これ、松山さんに持ってきました」
彼女が差し出した袋には、コーヒーと小さなシュークリームが入っている。どちらも、瞬士の好物だ。
なぜそれを舞衣が知っているのか、かなり気になるところだけれど、今は流しておこう。
「ありがとう、麻木さん。でも、今夜はもう帰ったほうがいい。遅いから」
素直に袋を受け取った瞬士は、あくまでも事務的に対応をしている。その姿が舞衣には不満なのか、口を尖らせた。
「帰らないんですか……?」
「ああ、もうちょっと仕事を片付けてからね」
「そうですか……。じゃあ、頑張ってください」
すっかりテンションが下がったらしい舞衣は、肩を落としてオフィスを出ていった。
「まさか、麻木さんが来るとは思わなかったな」
瞬士も驚いていたようで、ドアの鍵を閉めている。
「鍵、閉めちゃうの?」
「ああ、誰が入ってくるか、分からないからな」
「でも……。もう、しないよ?」
おずおず言うと、瞬士はクックっと笑った。
「やらないよ。さすがに、次はゆっくり家でするから」
「ちょ、ちょっと」
照れくさい気持ちで軽く睨むと、瞬士は軽く唇にキスをした。
「冗談、冗談。それより、参ったな」
瞬士は私の隣のデスクに腰を下ろすと、舞衣から貰った袋をかざした。
「そうよ。なんで、舞衣ちゃんが瞬士の好物を知ってるわけ?」
問い詰めるように聞くと、瞬士はニッとした。
「なに? ヤキモチ妬いてくれてるの?」
心を見透かされているようで、嬉しいような悔しいような複雑な思いが交錯する。だけど、瞬士が顔を近づけてきたから、素直に頷いた。
「だって、いい気はしないでしょ?」
「それは、もちろん。それがさ、麻木さんからは何度か差し入れされてて……。それで知られたんだ。何度も断ってるんだけど、聞いてくれないんだよ」
ため息交じりに話されて、それ以上の文句は言えなかった。それにしても、今までも差し入れがあったことに驚いてしまう。
舞衣は瞬士を狙うと言っていたけれど、本気だったのか……。それには、嫉妬心が込み上げてくる。
「なあ、佳乃子。春の異動次第で、俺たちの関係を話すか決める?」
「異動で? それだと、随分先になるけど……」
唐突な彼の言葉に、動揺してしまう。あれだけ隠すことに拘っていた瞬士が、いったいどうしたというのだろう。
「春の異動で、部署が離れるなら、話してしまったほうがいいなと思ったんだ。佳乃子を、自分のものだと、束縛したい」
「瞬士……」
瞬士の独占欲は嫌ではなくて、むしろ胸がときめいてくる。それに、きちんと二人のこの先を考えてくれていたことも嬉しかった。
「でも、このまま同じ部署なら、やっぱり佳乃子と一緒にいたいんだ。だから、祐馬には勘付かれているけど、秘密のまま通したい」
「分かった。瞬士の言うとおりにする。ちゃんと、考えてくれてありがとう。嬉しい……」
胸が温かくなりながら、笑みを向ける。すると、瞬士は私を抱き寄せた。
「考えるにきまってるじゃないか。俺は、佳乃子といつか結婚したいと思ってる。だから、誰にも取られたくないし、触れられたくもない」
「瞬士、私も。いつか、あなたと結婚したい……」
どちらからともなく目を閉じると、二人の唇が重なった。ライトなキスを……と思っていたら、つんつんと舌先で唇を突かれた。
素直に口を開けると、瞬士の舌が口腔内に入ってくる。舌をゆっくり絡められ、自然と瞬士の背中に手を回した。
「んふ……」
冷め始めた体が、また火照ってきそう。椅子を寄せて抱きしめ合いながら、彼の深いキスに応えていた。
「佳乃子が可愛い声を出すから、ちょっと理性崩れそうなんだけど」
唇を少し離した瞬士が、笑顔交じりに言った。
「それなら、私も一緒。こんな風にキスしてくるから、また体が熱くなったじゃない」
「ハハ。じゃあ、やっぱりもう一回しよう。次は、これ着けるから」
と言って瞬士はジャケットの胸元から名刺入れを取り出した。
「なにが入ってるの?」
「これだよ。一応、忍ばせてある」
名刺入れから出して見せてくれたものは、コンドームだった。いつも瞬士が使うメーカーのものだ。
「そんなの持ち歩いてるの⁉」
目を丸くする私と対照的に、瞬士は涼しい顔をしている。
「ああ。だって、いつ佳乃子とチャンスがあるか分からないわけだし」
「だったら、さっき着けるべきだったよね。今さらって感じだけど」
苦笑してみせると、瞬士に耳元で囁かれた。
「もしかして、生のほうがよかった?」
「そ、そうじゃないよ! 今度は着けようよ」
思わずムキになってしまい、さらに彼に笑われる。照れ隠しで可愛げがなくなるところは、常日頃から自分でも反省しているところだった。
だけど、瞬士は気を悪くするでもなく、笑顔を保っている。
「佳乃子のちょっと子供っぽいところも、俺は好きだな。すまして、なんでも素直過ぎる女性より、ずっと魅力的に見える」
「もう……。瞬士には、負けちゃうわ」
「勝ち負けなんかじゃないだろ。でも、あえて言うなら、俺のほうが負けてる」
「え?」
急に落ち着いた口調になり、ドキッとしてしまった。普段の彼は、明るい調子が多いけれど、時折見せる“大人の男”の顔に、どぎまぎしてしまう。
「佳乃子に惚れ込んでいるってところで、もう俺の負け。だから、抱かせて。もう一回抱きたい」
瞬士は甘えるように、顔を私の胸に埋める。彼が私にだけ見せる様々な一面が、愛おしくて仕方ない。
「うん……。瞬士といると、離れられなくなっちゃう」
「本当、俺も同じ想い。佳乃子、一度立ってくれる?」
「え? うん」
甘い雰囲気をもう少し味わっていたかったのにと、心の中で残念に感じながら言うとおりに立ち上がる。
すると、瞬士は私の椅子に座った。
「さすがに、人の椅子でセックスするわけにいかないからな」
「もう、そんな風に言われると恥ずかしいってば」
と、言い返している間にも、瞬士はベルトを緩めて反り立った塊を露わにした。そして、口でコンドームの袋を開けると、それを慣れた手つきで装着している。
「ほら、佳乃子。今度はお前が上に乗る番」
「その体勢、かなり恥ずかしいけど……」
「そんなこと言うなって。ほら、おいで」
両手を広げる瞬士に応えるように、私はショーツを脱ぐと彼に乗りかかるように両足を広げて、屹立を蜜口へ押し込む。
愛撫がなくても、濃厚なセックスのあとだからか、さっきのキスだけでも十分感じたからか、するりと彼の屹立が挿入されていった。
<つづく>
次回は3月8日(金)20時に更新!
ついに明日で最終回です!最後まで見逃さないでくださいね♡
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