【官能小説】調教された私…愛と快感、どちらか選ばなきゃダメ? -第7話-

官能小説

 

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指定しておいたカフェに行くと、智也は既に席について、カフェオレを飲んでいた。彼は大介と成美が揃って入店するのを見ると、ソフトライトのような笑みを見せた。

「成美ちゃん、久しぶり、元気だった?」

悪びれた風など一切見せず、彼は言った。成美は無言だった。

「大介、この前はどうも。成美ちゃんに再会できてよかったじゃん。で、二人はよりを戻したの?」

智也は二人に席に着くように促したが、大介は応じなかった。成美も一緒だった。智也が渋い顔をする。

「何だよ、話があるから来いって言ったのは大介の方だろ。用があるなら早くしろって。こっちも仕事を抜け出して来てるんだ」

「セックスをエサに、女に原稿書かせる仕事ですか?」

大介は、紙の束をダンッとテーブルの上に置いた。智也の顔色が、少し変わった。

「お前、どこでこんなに……」

「先輩の雑誌のバックナンバーを、あちこちから取り寄せました。これはその中から、ラストのページにある、ショートショートの官能小説コーナーだけを切り抜いたものです」

あの文芸愛好会の飲み会で大介を戦慄させたのは、巻末にあったこのコーナーの小説だった。これは間違いなく成美が書いたものだ。数行読んで、確信した。

成美とはよく、書き上げた小説の読ませ合いをして、批評ごっこのようなことをしていた。文章の癖、独特の台詞回し。内容は官能ものだったが、そんな潜在的な特徴まで変えられるわけはないのだ。

作者の欄を見て、全然知らない女の名前があった。ペンネームを使っているのかもしれない。ともあれ、これで成美と智也がまだ繋がっているのはわかった。

智也に連絡を取ったのは、せめて成美が、彼にきちんと大事にされているかを確認したかったからだ。

ところが電話の向こうの智也は成美の名前を出すと、「さあな、どっかで生きてんじゃん?」と、興味なさそうに言っただけだった。怒りを抑え込み、例の小説のことに触れると、ククッと笑われた。

「ああ、あれね。俺が昔、成美に書かせたヤツ。お遊びで書かせてたんだけどさ、あんまり出来がいいから載せさせてもらったの。あの号は誌面埋めるの大変でさー。成美には悪いと思ったけど、まあ、一回ぐらいならいっかなーって。成美、案外文才あるよ。て言うか、俺の〝ご褒美“もよかったのかも知れないけどね」

彼が成美の連絡先を一応取っておいたのは、万が一、また彼女に書かせなければならなくなった時の、保険の為だったという。

「一回ぐらいだなんて、何であんな嘘ついたんですか?」

大介が切り抜きの束をバサバサとやり、カフェオレの上に僅かに埃が舞う。

「これ、全部成美が書いたものですよね。一体何本書かせたんですか? ストックはどのぐらいあるんですか? それもなくなったら、本当に成美をどうする気だったんですか?」

智也は場を繕うように顔を引きつらせた。それでも二人が表情を硬くしたままでいると、迷惑そうに頭をボリボリと掻いた。

「たまたま誌面埋めるのに困って、やむを得ず一本だけ載せたというのなら、倫理的には許せなくても感情としては理解できますよ。でもこれ、完全に成美の連載ですよね。隔月ごとに、同じペンネームの作家に書いてもらっている体になっていますよね。先輩、成美に書かせた原稿で架空の作家をでっち上げ、原稿料横取りしていましたね」

大介の目から、火花が出ていた。しかし智也は軽くいなすと、面倒そうに溜息をついた。

「原稿料なんて、大した額じゃないっつーの。無名の作家のショートショートでもらえる報酬なんて、たかだか缶ビール二、三本分だぜ」

「じゃあ、なんでこんなことを?」

「だからさ、そういう条件で書いてくれる新人探すのが面倒だったんだよ」

「だったら最初から、直接成美に依頼すればよかったじゃないですか」

「えー、だってさぁ」           

智也はそこで初めて、成美をきちんと見た。ニヤリとした厭らしい眼差しは、視線による強姦だ。

「成美、色々覚えるの早くてさぁ。仕込むことなくなっちゃったんだもん」

ガタっと音がした。大介が、智也の胸倉を掴んでいた。

「あんた、成美を何だと思ってたんだ? 弄んで捨てて、作品まで奪って。どういうつもりなんだ!」

だが智也は涼しい顔を崩さない。

「あのさ、お前、勘違いしてない? そもそもの原因って、成美を満足させられなかったお前にあるんだぜ。この俺がお前の代わりに、成美に性の素晴らしさを教えてやったんだ。お前はそれが出来なかったろ?」

「だからって、作品まで奪っていいわけないだろ」

「何? 今更著作権がどうのとか言う訳? 成美、俺、原稿料の代わりにすげえいいことしてやったよな。あのクンニ、良かったろ? あれがして欲しくて、お前だって頑張って小説書いてたんだろ? 要するにウィンウィンじゃん。書き上げて、俺が読み終わるまで待っているお前、お預け食らったワンちゃんみたいで、最高に可愛かったぜ」

「テメエっ!」

大介の拳が、宙を鳴った、と思った。

彼は驚いて、成美を見た。彼女は無表情のまま、彼の腕を制していた。

二人の男は、それまで無言だった成美の行動に目を見張った。彼女はそのまま大介の腕を降ろすと、二対の瞳に注視される中、財布から札を取りだした。

高い位置から、ひらひらと撒く。成美の放った二万円は、智也の目の前をゆっくり落ちてゆき、カフェオレカップの脇で止まった。

「今までの、お代です」

成美は、言い放った。

「私は、智也先輩という男娼を、一年間買いました。お支払い、遅くなって済みませんでした」

智也が、あっけに取られていた。隣では、大介も同じ顔をしていた。

「男娼……?」

阿呆のように、智也が繰り返す。成美はにっこり笑った。

「なかなかいい仕事してもらいましたよ、先輩。これからもせいぜい、沢山の女の子を気持ちよくしてあげて下さい」

踵を返し、カフェを後にしようとする成美。大介が慌てて追いかけようとすると、「おいっ」と呼び止められた。

「どういうことだ? 俺は男娼で、その価値は一年でたったの二万ってことか?」

「ちょっと多過ぎかな、って気もするんですけどね」

智也の表情に、初めて怒りが灯った。成美はぺこりとお辞儀をすると、今度こそカフェを後にした。

 

<つづく>

 

次回は4月8日(月)20時に更新!

智也に一撃を与えることができた成美と大介。

明日はついに最終話です!お楽しみに♡

 

 

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