コンパの会場を抜け出すと、寒さの残る三月の街の空気が肌を刺した。智也は成美に歩幅を合わせてくれてはいたが、どこか主導権を握るかのような速度で歩くので、成美はついて行くしかなかった。
「どうしてわかったんですか?」
歩き初めてすぐ、成美は質問した。最近、大介とぎくしゃくしているのは本当だった。一緒にいてもなんだかつまらなそうな顔をしているし、セックスの回数も減った。
相変わらずセックスはあまり好きではなかったが、求めてもらえないとやはり淋しかった。今夜コンパなのにバイトを入れたのも、実は自分に会いたくないからではないかと、少し疑っているほどだった。
「どうしてって、あんなの読んじゃったら、俺じゃなくたってわかるよ。エッチの描写が貧弱すぎるもん」
頭がかあっと熱くなる。
「た、確かに性描写はほんの少ししかありません、けどあれは、そもそもそういう方向性の話じゃないからで……」
「長いとか短いとか、そういうことじゃないんだ。たとえどんなに短い描写でも、心からセックスが気持ちいいって思える文章からは、それがにじみ出るもんなんだよ。
君のさっきの文章見たら、とても君が大介とのセックスに満足してるとは思えない。多分大介もそう思ってる」
智也の言葉は、冷静だった。
「〝二人の愛の確認行動は、滞りなく進み終わった“? 今時、処女の高校生だってこんなつまらなそうなセックスは書かないよ。ズバリ言っちゃう。大介、君とのセックスに飽き始めてると思うよ」
成美の歩みが止まった。心のどこかで、そうではないかと薄々勘付いてはいた。だが改めて第三者に指摘されると、あまりにも情けなさ過ぎる。
大介を満足させられないのなら、私は一体何の為に彼に抱かれているのか。
瞳の辺りが、涙で熱くなってきた。
俯いていると、智也に肩を抱かれた。そうして彼は彼女を伴うと、再び歩き始めた。
「泣かなくていいよ、成美ちゃん。そんなの君だけのせいじゃない。大介、初めての男だったんだろ? 大介にはさ、君にセックスは楽しいものなんだって、教えてあげる義務があったんだ。あいつのことだ。どうせ自分勝手に盛り上がって勝手にイッてたんだろ。そんなんじゃ、女の子はいつまで経ったってセックスを楽しめるようにはならないよ」
智也の慰めは、救いのように胸に染み込んだ。
「じゃあ、私はどうすればいいんでしょう? 大介に飽きられるなんて、絶対に嫌です」
肩を抱く智也の手に、少し力が込められた。成美はその時初めて、自分がどこに連れて来られたのかに気が付いた。
困惑し、智也を見上げる。彼はソフトライトのような笑みを浮かべている。
「君はさ、セックスの楽しさってのを、もっと知ったほうがいいと思う」
彼の手を、剥がそうとした。だが肩に食い込むような握力に、それは出来なかった。
「わ、私結構です。大丈夫です」
「でも大介に飽きられたくないんだろ? だったらさ、大介が驚くようなイイ女になっちゃおうよ」
「そんな……無理です、困ります。離して下さい」
「じゃあさ、こういうのはどう? 俺、絶対に挿れない。成美ちゃんを可愛がってあげるだけ。それならいいんじゃない?」
冗談だと思いたかった。いくら何でも、彼氏のいる身で、その日初めて会った男とホテルに行くなんて非常識にもほどがある。
「行きません。帰して下さい」
「大丈夫だって、挿れなきゃ浮気にならないって」
「何なんですか、その理屈。信じられません!」
遂に成美は智也を押しのけると、駆けだした。だがすぐに腕を捕まえられ、後ろから抱きしめられた。抵抗するが、力に勝てない。
「俺はさ、君をイイ女にしてあげたいだけなんだよ」
結構です、うちに帰りたい。そう叫ぼうと思った。だが智也の最後の一言に、何も言えなくなった。
「大介、案外むっつりスケベなんだぜ。このままセックスが下手な女でいたら、他の女に取られちゃうかもよ」
いつも大介のアパートでしていたので、ラブホテルに入るのは初めてだった。薄暗い部屋のほとんどを占領するベッドを見て、成美はやっぱり帰りたくなった。後ろから肩を抱かれ、耳にキスされる。
「んっ……」
「緊張してるね。可愛い」
「本当に、挿れないでくださいね」
「勿論。大介に取っておく」
そう言って智也は耳朶を食み、項に舌を這わせた。こそばゆいのに心地よくて、背筋がゾクゾクしてくる。
「んっ…はぁ…んっ……」
「もしかして、こういうことされたこともないの?」
「ない…です……」
「いつもはどんな風に抱かれているの?」
「むね…触られて……アソコ、ちょっと弄ってもらって……」
「それだけで挿入?」
こくんと頷くと、智也は呆れた顔をした。
「わかってないなぁ、あの男。女の子は、焦らせば焦らすほど輝くのに」
耳にふぅっと息をかけられ、「はぅん」と小さな悲鳴が上がる。
上着を脱がされ、ブラジャーだけにさせられた。
「成美ちゃんは着痩せするタイプだね。おっぱいおっきい。弄りがいがありそう」
恥ずかしくて、息が止まりそうだった。智也はブラジャーの上からソフトなタッチで乳房を撫で始めた。
「どう?」
「くすぐったい…です……」
そう答えて、気が付いた。智也は、一番触って欲しい敏感なそこを、敢えて避けて撫でている。
「あ、あの……」
「なあに?」
訴えるように見ると、彼は楽しそうに笑っていた。ブラジャーの上から乳輪に円を描くようになぞられて、乳首の辺りがじんわりと熱くなる。
「んっ…んっ……」
身体がぴくり、ぴくりとなりはじめる。自分のはしたなさが嫌になる。大介という男がいるのに、他の男に乳首を弄られたいと思ってるなんて。
でも……でも……大介は、こんな焦らし方してくれない……
「すごい。触らなくても勃ってるのがわかる。やっぱ大介じゃ物足りなかったんでしょ」
「そ、そんなこと……あぅんっ!」
ブラを、一気に剥がされた。きれいな形の双球の真ん中が、ぷっくりと赤くなっている。智也はそれに掌を当てると、くるくると転がし始めた。
「あっ、あっ、んっ、んっ…ンん……」
さっきから触って欲しくてじれったかったのを、やっと満たしてもらえた。でも智也のタッチは綿を弄るように軽やかで、何となく物足りない。
大介はいつも、服を脱がすやベッドに押し倒し、すぐに揉みしだく男だった。
彼がとうとうベッドに連れて行ってくれたのは、乳首へのソフトマッサージに耐えられなくなる寸前だった。横にされ、厭らしい顔で見降ろされる。
「さて、次はどんな風に焦らそうかな」
身体が、失望した。次はアソコを弄ってもらえると思っていたのに、まだ焦らされるのか。
「あっ! ああ…っ!」
乳首を、想いきりギュッと摘ままれた。甘い刺激が、身体を巡って子宮に到達する。
「やっ、やっ、あんっ、イイィ…!」
ぐりぐりされ、引っ張られ、口に含んで舌で転がされ、チューチューと音を立てて吸われる。違う刺激が断続的に与えられ、腰が熱くてたまらなくなる。
乳首への愛撫に、こんなに沢山バリエーションがあるなんて知らなかった。じれったかったり、快感に踊り出しそうになったり、息次ぐ暇もない。乳首だけでもこれなのだ、アソコはどんな風にしてもらえるのかと期待が膨らむ。
手が自ずと、智也の股間に触れていた。
「俺、どうなってる?」
「硬い…大きい……」
「そうだね。君のせいだよ」
さり気ない言葉が、嬉しかった。
「フェラ、したことある?」
「ない……」
「クンニされたことは?」
「それって、何?」
智也は流石に驚いた、という顔をした。
「あいつ、本当に気が利かない奴だな。じゃあさ、試しにちょっと俺のフェラしてみない? そうしたら、クンニがどういうものなのか教えてあげる」
「その前に先輩……キスしてください……」
智也は頷くと、成美に顔を近づけた。
咥内で、舌と舌が絡み合う。大介のそれよりねっとりしていて、執拗で、夢中になれた。
智也は膝立ちになると、自分のものを成美の前に晒した。初めて見る大介以外の男根は、違う生き物のようだった。
「初めてでしょ? 無理しないでいいからね」
<つづく>
次回は4月4日(木)20時に更新!
ついに一線を越えようとしている成美と智也。次回も見逃せない♡
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