【官能小説】調教された私…愛と快感、どちらか選ばなきゃダメ? -第5話-

官能小説

 

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春になると、嫌なことばかり思い出す。幸い花粉症とは縁がないが、営業で外回りの仕事をして街中を歩くたび、春の気配ってやつが恨めしくなる。大介は日差しに温められた空気を吸い込むと、はぁっとわざとらしく吐き出した。

成美に捨てられてから、四年になる。

あの頃、成美とぎくしゃくしていたのは本当だった。だが付き合って一年にもなれば、倦怠期ぐらいあるだろうと、大した問題にしていなかった。

だがもしあの日のコンパに智也が出席すると知っていたら、バイトなんか休んで成美の傍から離れなかったろう。

智也の性癖は、在学中の彼を知るサークル仲間の間では有名だった。セックスのイロハをよくわかっていない(そしてできれば処女ではない)女の子を見つけ出し、自分の好きなように調教し、厭らしい女に開花させる。

それが楽しいのはまあいい。智也の最悪なところは、一度目覚めた女に興味を無くしてしまうことだ。

「俺さ、俺の顔見ただけでアソコが濡れるような女作るのが好きなんだよね。でも、そういう顔も、ずっと見てると見飽きちゃうんだよ」

自慢げに、智也がそう語っていたのを思い出す。まさか自分の彼女がその毒牙にかかるなんて、思ってもみなかった。

あれから四年。成美に対する怒りは、不甲斐なさに淘汰されていた。もし自分が智也ほどセックスの上手い男だったら、成美は俺の元から去らなかったもかも知れない。

自分が女を抱くのが得意じゃないのは知っている。成美が満足していないのにも気づいていた。もし俺が、俺の顔を見ただけで成美を濡らすことができるような男だったら……

そこまで考えて、大介は頭を振った。                          

もう、考えても仕方のないことだ。もしかしたら成美は智也先輩と上手くいっているのかもしれないし、全く別の男と幸せにしているのかもしれない。四年という月日は、短いようで長い。

もし可能なら、せめて成美が元気でやっているかだけでも知りたいと思う。智也の食い物にされて、失意の中にいるのでなければいいのに、と。

そんな機会はまず訪れないと思っていた。だがそれはある日、唐突に訪れた。

 

久しぶりに文芸愛好会の同期卒業生で飲もうという話になった。大介と成美と智也のことは周知の事実だったので行くのは気が引けたが、案外気晴らしになるのではないかと思い、出席することにした。

居酒屋には懐かしい面々が揃っていて、大介を見かけると「よっ」と変わらず声をかけてくれた。乾杯の後、近況やら昔話やらが飛び出す楽しい宴席になり、固かった大介の心も次第に酒に和らいでいった。

隣の席のヤツが、カバンの下に雑誌を隠していたのに気が付いた。心が一気に引きつった。

「お前、これ……」

カバンの下から取り上げると、隣のヤツは「うわっ、やめろっ」と慌てた。そのやり取りを周囲の連中が、ゲラゲラ笑いだした。

「お前、そんな風俗誌買ってんの?」

「すげー、溜まってんのか」

「やだぁ、エッチなんだからぁ」

それはいわゆる男性誌と呼ばれる中でも、下半身を満たすのに使う月刊誌だった。だが大介がこれに気を留めたのには、他に理由があった。

彼はその雑誌の編集部に、智也がいるのを知っていた。

試しに数ページめくってみる。いかがわしいグラビアや大人の玩具の広告ページが続く。少し興奮しそうになったが、これが智也の仕事なんだと思うとすぐに萎えた。

ページのラストのほうには読者の投稿コーナーなどの文章が載せられた白黒のページが、数ページ続いていた。

そのページのひとつに目をやって、大介は戦慄した。

食い入るように、読み始めた。何度も何度も、唾をのみながら。同席している一人が、固まったように雑誌に見入る大介をからかった。

「おい、お前、こんな所でコーフンするなよ」

アハハという声が、複数聞こえる。だがしばらくして顔を上げた大介の瞳は燃えていた。

「誰か、智也先輩の連絡先知らないか?」

その場が、凍り付いた。大介の中から智也の名前が出てきて、皆戸惑っていた。

「知らないことはないけど……」

しばらく沈黙が続いた後、向かいの席の一人が言った。「教えろ」と言うと、そいつは渋々とアドレスと番号を教えてくれた。大介は乱暴に礼を言うと、宴席を後にした。

 

今日も一日、疲れたな……

成美は重たい身体を引きずって、その日もアパートに帰ろうとしていた。

毎月毎月、家賃の為だけに働くこの生活に、そろそろ嫌気が差していた。智也を追いかけてきたはずなのに身体は潤わず、生活まで荒んでいく。

でも実家からでは今の会社に通うには遠すぎるし、引っ越す金もない。がんじがらめの生活は、一体いつまで続くのだろう。

マンションの階段を、カンカンと昇る。上がったところで、息が止まる。

彼女の部屋の前には、男が一人、立っていた。

「久しぶり」

くしゃりとした笑顔で、大介は言った。あまりに予想外のことで思考が停止し、言葉が出てこない。だがそのまま見つめ続けられていると、罪悪感と羞恥心が弾けそうな勢いで生まれた。このまま消えてしまいたい。

「どうして……?」

どうしてここにいるの? どうしてここがわかったの? 色んな意味を集約させたその言葉だけが、辛うじて唇から零れ出た。

「話、できないかな? 部屋に入れてくれると嬉しいんだけど」

大介とは憎くて別れたわけではなかった。彼が話したいというなら、断る理由はなかった。

「こざっぱりして、清潔な部屋だね」

入るなり、大介はありきたりにそう褒めた。実直な言葉選びもそのままだと感じた。

大介をローテーブルに座らせ、お茶を淹れ、向かい側に腰を下ろす。紅茶の湯気だけが、二人を長いこと繋いでいた。

「ごめんなさい」

やっとのことで、成美は言った。

「ああ、すごくショックだった」

大介の口調に怒りはなく、どこか漂白されていた。

「智也先輩と付き合ってたんだろ?」

「付き合ってたっていうんじゃないよ、あれは」

ただ、厭らしい女に改造されちゃっただけだよ。

「大介と別れて一年ぐらいで、智也先輩とも会わなくなった。それで今、一人暮らし」

「大変だろ、OLの給料じゃ」

「うん」

「辛かったよな」

「それよりどうしてここがわかったの?」

「智也先輩から聞いた」

胸が、ヒヤリとした。引っ越して以来、智也に会いたくて、来て欲しくて、連絡先を記したメールやラインを何通も送り続けた。

しかしいつしか既読すらつかなくなり、電話番号すら変えられ、見捨てられたのだと悟った。だからまさか、彼が自分の住所を控えていてくれたなんて、思ってもいなかった。

「私の連絡先なんか、とっくに破棄されちゃってると思ってた」

「それについては理由がある。後で話す。俺、お前にお願いがあってここに来たんだ」

真っ直ぐな瞳に見つめられる。喉が渇く。

「もう一回、俺にお前を抱かせて欲しいんだ」

「……どういうこと?」

「言葉通りの意味。もう一回でいいから、お前を抱きたい」

大介の意図が、まるでわからなかった。問いかけるように見ると、彼はこれまでになく真剣な顔をしていた。

「……ちょっとわからないんだけど。よりを戻したいとか、ムカつくから殴らせろとか、そんなんなら意味もわかるけど、一回だけ抱きたいってどういうことなの?」

「一回って言い方が悪かったかな。要するに俺、比較されたいんだよ。智也先輩と俺と、どっちのほうがいいかって」

一瞬、大介の正気を疑った。

「な、何言い出すの? こんなの、どっちがいいとか悪いとか、そういうことじゃないじゃない」

「でも実際はそうじゃなかったろ。お前が智也先輩を選んだのは、先輩を好きになったからじゃない。先輩とセックスしたかったから、それだけだ」

「い、今更そんな言い方で責めなくてもいいでしょ」

「責めてるんじゃない。俺はただ、もう一回お前を抱いて、智也先輩に勝ちたいんだ。勝って、決して男として見捨てられたわけじゃないってことを知りたいんだ。だから頼む、後一度だけ、俺を試してみてくれ……」

 

<つづく>

 

次回は4月6日(土)20時に更新!

大介と再会を果たした成美。一体どうなる?♡

 

 

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