「……きれい」
「……も……あんまり見ないで」
大して自信のないスタイルを、槙人がまじまじと眺めるので、亜加梨は手で胸を覆った。褒め癖があるのか、槙人は先ほどから、かわいい、きれい、と惜しげもなく言葉にしてくる。言われ慣れない言葉にむずむずしてしまう。
「嫌です、見たい」
ぐっと両手をシーツに縫い止められ、力で敵わないことにぞくっと背筋が震えた。しかし槙人は、両手の指を一本一本絡めて握ってくる。まるで恋人のような優しい繋ぎ方に、恥ずかしさと幸福感で頭が混乱しそうだ。亜加梨は、カーッと自分の顔が熱くなるのを感じながら、槙人の手をきゅっと握り返した。
「……見すぎ」
「だって、嬉しいんですもん」
「電気消せば良かった……」
「駄目です、見せてください」
するっと右手が剥がされて、ブラジャーのホックに回る。亜加梨はもう抵抗せずに、槙人の顔を見ていた。揺れる薄茶色の瞳で、自分に興奮してくれているのがありありと分かる。
ふっと身体が緩んで、下着をずり上げられる。胸が曝け出された途端、恥ずかしさを感じる暇もないまま、槙人がそこに吸い付いた。
「あっ……」
ちゅっと突起を吸われたかと思えば、歯でカリッと甘噛みされる。急に与えられた強い快感に、腰が仰け反って、お腹の奥がきゅんと重くなるのがわかった。
「……っ、ん」
左胸をまるでキスのように、ちゅ、ちゅ、と愛撫され、舌で舐めしゃぶられる。右側は大きな手でやわやわと揉まれ、左胸の快感と比べて焦れったい刺激に、亜加梨は身をよじった。
「んん、」
「こっちも触ってほしいですか……?」
右胸の乳輪を焦らすようにくるくるとなぞられ、亜加梨の目には涙が浮かんだ。
降参するように下を見ると、上目遣いの槙人と目があった。きゅっと細められた瞳に恥ずかしくなるが、射止められたように目が反らせない。
ぺろ、と出した槙人の舌が、掴まれた右胸に移動していく。期待で喉が鳴った。あと少しで舐められるというところで、口を離してふっと息を吹きかけられた。
「んぁ……っ、」
「そんな期待した目で見られたら、苛めたくなっちゃうじゃないですか」
「も、意地悪――……っぁあ!」
突然、きゅっと右の乳首を摘ままれて、びりびりっと急な快感が亜加梨の身体を駆け抜けた。ぐりっと指ですりつぶされるような刺激に、「あっ、あ」と声が止まらなくなってしまう。
槙人は、亜加梨の顔にすり寄ってきて、ちゅ、と口にキスを落とし、今度は両手で胸を揉みしだいた。
「んっ――んん、っ」
「あー……先輩、かわい……」
はぁ、と槙人の興奮した荒い息が聞こえ、亜加梨はたまらず脚の間をすり合わせた。驚くほど身体が翻弄されている。
ディープキスでどろどろに溶かされながら、両胸の先をカリッと爪で引っかかれ、びくんびくんと腰が浮くのを押さえられない。
「んんっ……はぁ、っあ!」
「気持ちいですか……?」
「うん……」
逆らえずにこくんと頷くと、槙人は嬉しそうに笑った。その無邪気な笑顔は、いつもの”不二野くん”だ。改めて、誰に抱かれているのかを思い出してしまう。目の前でギラギラとした瞳で亜加梨を溶かしているのは、ずっと弟みたいに思っていた会社の後輩だ。自立間際とはいえ、教育係なのだし、仕事に支障をきたす可能性だってある。
しかし、ここまで来て止まれる自信など、亜加梨にもなかった。
「……はぁ、好きです、南先ぱ……すき」
脚の間に、ぐっと槙人の熱を押しつけられ、亜加梨はびくっと身体を反らせる。槙人のモノは、さっきよりずっと、熱く、固くなっている気がする。
ぐりぐりとお互いのスーツの上から、性器をすり合わせるような動きに、亜加梨の腰も勝手に動いた。もうショーツの下は、ぐっしょりだろう。
「……脱がしていいですか?」
この後に及んで聞いてくるのはずるい、と亜加梨は思った。返事をする代わりに、自らスカートのジッパーをゆっくり下ろすと、槙人は「ふっ」と声を出して笑う。
「……何?」
「いや……嬉しくって」
槙人はちゅっとおでこにキスをした後、自分のワイシャツを性急に脱いで投げ捨てた。薄らと浮き出た腹筋に、亜加梨は目を奪われてしまう。槙人のスタイルがいいのは知っていたが、身体もほどよく締まっている。本当にモデルでも通用しそうだ、と思わず見とれた。
「……何見てるんですか? 先輩のえっち」
「はぁ?!」
「あはは、冗談ですよ」
笑いながら、槙人はスラックスも脱いでベッドの下に放った。黒いボクサーパンツは、勃ち上がったペニスの形に盛り上がっていて、今度は思わず目を反らす。
「…………っ」
「ほら、先輩も脱いでください」
中途半端に袖が通ったままだった亜加梨のシャツを脱がせ、槙人はそれをぱぱっと畳んだ。ブラも丁重にワイシャツの上に乗せ、床にきちんと置かれる。
まるで自分自身が大切に扱われているような感覚になって、亜加梨はむずがゆかった。本当にそつが無い。後輩にドキドキさせられて、何となく腹立たしいのに、嬉しくもある。
「……やっぱり、電気消さない?」
いざスカートに手をかけられると、心もとない気持ちになって、亜加梨は槙人を見上げた。
「えー……じゃ、せめて室内灯にしてください」
不服そうにしながらも受け入れてくれたので、亜加梨は枕元のリモコンで電気を室内灯に落とす。暗くなるとしかし、視界が遮られた分撫でられている背中が敏感に感じられ、亜加梨は思わず息を飲んだ。
「んー、先輩の顔、見たいのに……」
不服そうな声が近づいてきたかと思えば、ぎゅっと押し込められるように身体が密着し、キスが降ってきた。薄暗い中で体温を分け合うような感覚に、肌へなんともいえない気持ちよさが広がる。ちゅっと口づけられた後は、槙人が微笑んだのが分かった。
「まぁ、これはこれでムードがあって、いいですね」
「不二野くん、よくそんな恥ずかしいこと平気で言えるね……」
「そうですか? そんなつもりないんですけど――」
深いキスを受け、また舌同士を絡め合う。槙人の唇が自分の唇にぴったり合わさると、どちらのものかわからない唾液がぬるりと流れ込んできた。ぐちゅ、といやらしい音を響かせるキスの最中、下の方でスカートが下ろされる。亜加梨は、自分の奥がずくんと疼くのを感じた。
「……っひあ!」
前触れなく突然、ストッキングの上から溝をなぞられ、声が上擦る。
「んん……っ」
ぐっぐっと押し込むように指が何度か往復し、もどかしい快感に脚を擦り合わせていると、槙人が耳元で囁いてきた。
「中、すごい濡れてません?」
「……っ!」
自分でも、ショーツの間がぬるぬると滑っているのが分かる。亜加梨は自分の顔に熱が登っていくのを感じた。黙っている間に、ストッキングとショーツを下ろされて、槙人の手が入り込む。
「あっ――! っ、はぁ」
「すご……ぐちゅぐちゅですよ……」
愛液を引き延ばすように、指が性器をまさぐってくる。後ろから前まで、ツーッと塗り広げられ、くるくると、敏感な陰核の周りを焦らされた。くちゅっと小さな音が亜加梨の耳にまで届き、相当濡れているのだと思い知らされる。
「……はぁ……っ、んん」
脚を捩っても、膝で引っかかっているスカートやショーツが、まるで枷のようになって動くことが出来ない。槙人が頭を抱き寄せてくるせいで、腰も上手く動かせない。与えられる刺激から逃げることも出来ないし、もどかしくても主導権が握れない。亜加梨は自分の全てを槙人に支配されているような感覚になった。
「んんっ……んぁ」
「物足りないって顔してますね、先輩……やらしい」
「……っ、ばか」
「すっごい可愛いです」
「ひぁ! あっ……あ!」
ぐりっ、と急に陰核を潰されて、亜加梨の身体にびくびくと電撃が走った。トントンと敏感な部分を突かれて、ぬめらせた皮を剥くように、じっくり撫でられる。
「ぁあ……っ、や、あ! っあ!」
「ここ、好きですか?」
「んあ、はぁっ……んん――ひあっ」
槙人がキスをしながら、ボクサー越しにペニスを押しつけてきた。ぐっと固い熱と敏感になったクリトリスが擦れて、亜加梨は快感で泣きそうになる。まだ挿入もしていないのに、達してしまいそうだ。腰を揺らされると、どうにもならなかった生理的な涙がぼろぼろと頬に零れた。
<つづく>
次回は3月29日(金)20時に更新!
ぜひお楽しみに♡
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