「はあ……。ふうっ……、はあはあっ」
姫奈子はそこではじめて、男の興奮している声を聞いた。声と言うよりは息に近いが、それで少しおかしいと思う。
(……アレ? いつもの右京さんなら、もっとお話するはずよね? 何だか今夜は口数が少ないような……)
ベッドの中の右京は、年上の余裕なのか、重ねた経験のせいか、優しくもイジワルなトークを繰り広げる。言葉だけで姫奈子の肉体を昂らせることもあり、無口というのはまずありえない。
毒を含んだ甘い言葉で姫奈子を興奮させる腕前があることを自覚しているのか、右京は昼間よりも夜の方が饒舌だ。
肉体への愛撫もいつもは優しく丁寧で、イジワルに焦らすことはあれど、今夜のように激しく求めてきたことはない。
それに何よりも、体内に入った右京の男としての証に違和感がある。
(右京さんじゃない……はずはない……、と思うけど)
この邸はセキュリティーが厳しく、姫奈子を襲うような男が侵入してくることはまずない。邸には右京の会社関連の資料もあるので、警備は重要視されているからだ。
それにこの邸に右京以外の男がいることなんて、聞いたことがない。
(右京さんはお酒に強いから、あの程度のワインを飲んだぐらいで人が変わるはずもない……。じゃあ……わたしのナカにいる人は誰?)
薄暗い部屋の中で眼を凝らして見ても、やはり右京にしか見えない。
疑問に思っている間にも、男は動き出す。嫁入りしてから右京の勧めで高級エステに通ったために細くなった腰をガッシリと掴み、力強くピストン運動をはじめる。
硬く開いたカリ首が潤んだ柔肉を容赦なく押し開いていき、Gスポットをゴリゴリっと押し潰す。先端部分までギリギリ引いたかと思うと、再び子宮を押し上げるほど奥深くまでズパンっと押し入れる。
欲望が命じるままに姫奈子の女体を揺さぶる男の行為は激しく、姫奈子は頭の中が真っ白になり、目の前がチカチカしてしまう。
「ちょっ……待って! あああっ、激しいっ……」
止めようとした両手は、男の胸を軽く押す程度の力しか出ない。
いつもよりも荒々しくも激しい快楽を与えてくるセックスに、徐々にあらがえなくなってきたのだ。
(ああ、やっぱり右京さんじゃない……。こんなセックス、しないもの)
頭では分かっていても、快楽の波にのまれてしまった姫奈子の肉体は拒絶することができない。
男は腰を幾度も強く叩きつけながらも、姫奈子の激しく揺れる二つの胸を見て、新たな欲情を芽生えさせる。素直に両手を伸ばして、プルンプルンっと揺れ動く胸をガシッと掴んだ。
「あんっ!? もっもう少し、優しく触ってぇ……」
息を激しく乱しながらも甘い声で哀願してくる姫奈子の姿は、男にとっては媚薬そのもの。
男は姫奈子に覆いかぶさり、再び熱いキスをする。
すでにまともに考えることができなくなっていた姫奈子は、無意識にうっすらと唇を開き、舌を差し出す。
男は嬉しそうに自ら舌を絡めて、ディープキスを交わす。
(何かもう……頭がぼ~っとして、何も考えられない……)
それほどまで、この男とのセックスは刺激的で気持ちが良かった。
男が姫奈子の肉体を強く欲していることが分かり、余計に肉体が溺れてしまうのだ。
身体を密着したピストンから、やがて男は姫奈子の最奥にペニスを挿れたまま、細かい動きに変える。
パンパンに膨らんだ欲望の塊が、男の絶頂が近いことを知らせてくれた。
「んんっ~~! んふうっ……、あふぅう!」
唇をキスで塞がられながらも、声を上げずにはいられない。
子宮をグイグイ押し上げられながら、男は腰をグルグルと回したり、細かく突き上げたりという行為を繰り返すからだ。
そして先端部分と子宮口が熱いキスを交わす中、とうとう男の欲望は爆ぜる。鈴口から大量に出てくる精液が、姫奈子の子宮にどんどん注がれていく。
(ああっ、熱い! それにいっぱい出てるぅ! これじゃあ赤ちゃん、できちゃうよぉ!)
結婚をする時、もちろん妊娠する覚悟は決めてきた。
けれど右京が特に急ぐ必要はないと言ってきた時、ほっとしたのは事実。下手に妊娠を迫られるより、気楽で良いとその時は思ったのだが……。
(でも何でだろう? コレで妊娠しても、良いと思えちゃうのは……)
やがて最後の一滴まで子宮に射精した後、男は姫奈子の身体からゆっくりと離れていく。
射精したことによりわずかに落ち着いた肉棒も、ズルリッ……と粘液の糸を引きながら姫奈子のナカから出た。
激しい呼吸を整えながら、姫奈子は快楽の涙で濡れた眼で、改めて男を見上げる。
「……あなた、誰?」
弱々しい声で尋ねると、男の身体がビクッと揺れ動く。
――明らかに動揺した。それはつまり、男が右京ではない証拠だ。
「右京さん……ではないわよね? 誰なの?」
どうしてこんなことを?――と尋ねる前に、口から出た言葉は男の正体を尋ねるものだった。
右京じゃない男だということは分かっているのだが、どうしても右京の存在が消せないのだ。
この三ヵ月、共に過ごしてきたからかもしれない。妻として、女としての勘が、姫奈子の胸をザワつかせる。
「おっオレは……」
「――素晴らしいね、姫奈子」
パチッと電気のスイッチ音がしたかと思うと、部屋の明かりが突然パッとつく。
「うっ……! 眩しい……」
涙で濡れた目には眩しく映り、姫奈子は思わず眼を閉じる。
――しかし姫奈子の耳は、ちゃんと聞いていた。自分を抱いた男の声に重なるように、夫の声が聞こえたことに……。
だんだんと目が慣れてきた姫奈子は、ゆっくりと上半身を起こす。眼をちゃんと開いて現実を目の当たりにした姫奈子は、驚きに声が出せなくなる。
壁際にはいつの間にか夫が立っていた。部屋を出て行った時と同じ格好で、楽しそうに微笑みながら――。
そして自分と同じベッドの上には、もう一人の右京……いや、似て非なる男がいたのだ。
その男の姿に見覚えがあった姫奈子は、眼を丸くする。
「あなたは……確か三ヵ月前のお見合いパーティの時に、中庭で具合悪そうにしていた人……」
「……覚えていたのか」
男は汗で濡れた黒髪を、手でかきあげる。気まずそうに姫奈子から顔をそむけるものの、その表情はあの日あの時のものだ。
(……そうだわ。あの時、わたしは一瞬、この人のことをこう思ったんだった)
『あら? もしかして……東城院さんの兄弟かしら? 何となく、似ている気がするわ』
けれどこの男性はパーティ会場にはおらず、その後会うこともなかった。
「右京さん……。あなたに似たこの人は誰なの?」
「やっぱり姫奈子は賢いね。彼は左京(さきょう)、ボクの双子の弟だよ」
<つづく>
次回は4月14日(日)20時に更新!
なんと右京はまさかの双子だったー。今後も目が離せませんよ♡
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