美紀は潤の言葉に目を見開いた。かけられた言葉は、熱をはらんでいるような気がしたからだ。今までのような先輩と後輩というだけではない、踏み込んだ関係。それを思わせるような熱だった。
美紀はそのまま潤に見入ってしまう。お互いの視線が絡み合い、自然と唇を合わせた。
潤の胸の中に抱かれると、彼の脈打つ鼓動を感じた。潤の鼓動はとても速い。彼が自分にドキドキしてくれるなんて、と美紀は嬉しくなった。
触れるだけの口づけは、だんだんと濃いものになっていく。気がつけば潤の手が、美紀の腰を撫でていた。性的なものを感じさせるあやしい手つき。だが美紀はそれを嫌なものだとは思わなかった。
彼に抱かれてしまいたい。まだ酔っているからかもしれないが、美紀はその感情を確信し、彼を強く抱きしめた。それを潤はイエスだと思ったのか、美紀の手を引いた。
「ベッド、行きませんか?」
「潤……くん」
早く彼に抱かれたい。その思いから、潤の腕に抱きついた。壁にもたれるようにして、口づけをかわしながらベッドのある部屋に移動した。
「先輩……」
「美紀って呼んで?」
「美紀、可愛いよ」
ベッドに押し倒され、潤に見下ろされる体勢になる。そうして急くように口づけを互いに何度も繰り返した。気がつけば美紀の胸元ははだけ、胸を揉まれてしまう。彼に触れられるだけで、体が熱くなるのを感じた。
ブラジャーを外され、胸の突起を口に含まれると美紀は悶えた。すでにその突起はかたくなり、触れられるのを待っているかのようだった。乳首を長くて綺麗な指でころんと転がされるたび、吐息がこぼれてしまう。
「だめ……」
「でも、気持ちよさそう」
美紀の声が喜んでいることなど、お見通しなのかもしれない。生意気な後輩を軽く睨みつけると、潤は小さく笑った。つられて美紀も小さく笑う。そうしてまたお互いに見つめ合い、今度は深い口づけをした。
腕を潤の背中に回して、キスを味わう。潤が美紀のスカートに手をかけていたが、そんなことは気にせずキスを繰り返した。潤の巧みな手によって、気づけば美紀は裸にされてしまう。
「美紀、ここすごく熱い」
「言わないで……」
美紀の奥に触れた潤は、わざと耳元で囁く。美紀が恥ずかしがっているのを知っているのだ。しかし、美紀はそれさえ快楽に感じてしまう。ジンジンと触れられた箇所が熱をもち、しっとりと濡れてくるのがわかった。
潤の指でそこをいじられ、こすられるたびに、蜜がさらに溶けだしていく。潤の優しい手つきに、気づけば美紀はもっと先のことを望んでいた。
「潤くん、お願い……」
「いいの?」
「うん」
美紀は腕を伸ばして先をうながすように彼の胸に顔を埋めた。そうすると、潤はまだ着ていたシャツを脱いで裸になる。美紀がその様子を見ていると、潤は恥ずかしそうに笑っていた。
潤がそのまま美紀を抱き寄せると、濡れたそこに潤の熱を感じる。ゆっくりと優しい潤の動きに、うっとりしてしまう。こんなに優しく抱かれたのは初めてだと美紀は思った。
そうしてふと前の彼のことを思い出す。大学生の頃、美紀には二人付き合った人がいた。一人とは一年でお別れをしたが、もう一人とは数年付き合った。
しかし、その彼とは距離ができてしまい、もう連絡をとっていなかった。自然消滅と言っていいだろう。彼は遠くに勤務先があるし、お互いが一緒に進む未来はないと感じていた。
「潤…くん…」
久々の行為に最初は少し違和感があったが、中をゆっくりかき回されると次第に慣れ、甘いしびれが美紀の背中を走った。奥が熱をもったようにドクドクと熱い。昼間は穏やかな彼が、情熱的に自分の体を抱いてくれている。
そんな事実と潤の熱い息づかいが相まって、美紀は頭が沸騰しそうになっていた。彼の動きが速くなると、美紀も強い快楽に体を震わせ、彼の肩をグッと掴んだ。
潤は果てると、美紀をそっと抱きしめた。汗のニオイに混ざって、ほのかにお酒の香りを感じ、美紀はふと我に返る。まさか彼とこんなことをしてしまうなんて…。数年ぶりに再会した後輩と一夜をともにしてしまったが、不思議と美紀には後悔がなかった。
潤とのセックスは1度では終わらず、明け方まで何度も抱き合った。お互い夢中で求め合ううちに疲れ切ってしまい、二人同時に眠りについたはずだったのだが、次に目を開けたらベッドには潤がいなかった。美紀は体を起こしてまわりを見渡す。
すると潤がバスルームのある方向から出てきた。頭をタオルで拭いているので、シャワーを浴びたのだろう。その爽やかな笑顔からは、昨夜の激しいセックスは想像ができない。美紀は一人恥ずかしくなってしまった。
「先輩、おはようございます。無理、させてしまいましたよね。すみません」
「ううん。酔っていて、あまりよく覚えてないかな」
美紀は恥ずかしさのあまり、嘘をついてしまった。確かに酔った勢いでしてしまった部分もある。だが美紀は望んで抱かれたのだ。しかし、恥ずかしくてそんなこと言えるはずもない。
「そうですか……、俺も酔っていたので。あ、でもこのことは狙っていたかもしれないです」
「え?」
「再会して、先輩がすっごく綺麗になっていたから」
潤は恥ずかしそうに付け加えた。美紀も赤面してしまう。こんなかっこいい人に綺麗だなんて言われて嫌なはずがない。そこでふと、美紀はあることに気がついた。
「あれ、敬語に戻ってる」
「いや、これから会社ですから。敬語に戻しておかないと、うっかりしゃべってしまいそうで」
「そうだ!会社……」
「はい、まだ時間は大丈夫です。朝ご飯用意しましたから、食べてください」
「すごい!ありがとう」
「簡単に作っただけなので。気にしないでください」
美紀はテーブルに置かれたプレートを見つめた。トーストと、ハムエッグ。それに簡単なサラダが用意されている。
美紀は忙しいと朝ご飯をおろそかにしてしまうことが多いので、一人住まいでもちゃんとしている潤の生活に感心してしまった。やはり私よりしっかりしているかもしれない…。
「いただきます」
潤のTシャツを借りて、美紀はテーブルの前に座った。トーストをかじると、さくっとした食感とバターの風味がした。美紀が美味しそうに朝食をとる様子を、潤は微笑んで見ていた。
まるで恋人同士が迎える朝のようで、美紀はつい口角が上がりそうになる。つい昨日まで後輩としか思っていなかった彼。そんな彼との甘い朝の時間。
「もー、見ないで」
視線に耐えられず、じっと潤を睨みつける。すると潤は喉で笑いを堪えるような様子を見せた。そうして二人で楽しく過ごす朝の時間が過ぎて行く。
会社に行ったらこんな親密な空気などなくなってしまうかもしれないと、美紀は少しの寂しさを感じていた。それが何故なのかはよくわからなかったが。
<つづく>
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